歯科治療は多くの方にとって、やはりストレスの多い治療でしょう。
その上、最近は抜歯、インプラント(人工歯根)など手術も増えてきました。
痛みは、生理的な(神経を伝わる)痛みと精神的な痛みに分けれます。
身体的な(生理的な)痛みは、局所麻酔で除去出来ることがほとんどですが、精神的な痛みの対処は、医院によって大きく異なってきます。
医師に対する信頼感、病院の雰囲気に大きく関係します。
過去にいやな経験をされた方や不安感の大きい場合、痛みの除去が上手くできないことがあります。その様な時に良いのが、精神鎮静法です。
鎮静法には・・・
治療の受ける環境が清潔で落ち着ける状態であること、さらに、治療に当たる歯科医師の技術、態度、言葉使い、スタッフの対応が感じよいものであれば、精神状態は、自然と和らいだものとなるでしょう。
このことは非常に大事なことで、痛みに対して重要なファクターです。
理想的にはアメニティーまで、考えられた個室の診療室が理想であり、隣で歯を抜いている状態では鎮静にならないのは、すぐわかるでしょう。
よねざわ歯科医院では、全室個室であり、隣は全く見ることもできない状態です。
薬剤を用いる鎮静法には、投与経路によっていろいろな方法があります。すなわち吸入、経口、筋肉、静脈、直腸内です。
中枢神経に直接作用させて、鎮静を得る方法であり、飲み薬、点滴による静脈内鎮静法が多いです。
吸入鎮静法に用いる薬剤では、笑気(亜酸化窒素)と酸素の混合ガスがもっとも、ポピュラーです。
歯科医療が充填や義歯の装着といった本質的なものだけでなく、より審美的に、より機能的にと求められてきました。
なかでも治療の苦痛を減らし、安全で安心できる歯科治療の環境を、患者さんたちは選びはじめています。
このような時代にあった価値観のなかで、歯科医は新しい感覚の歯科サービスを考え、付加価値の高い歯科医療を提供し、地域医療のなかの信頼を確立しなければならないようです。
笑気吸入鎮静法は患者さんを大切にする意味から、これからの歯科医療に欠かせないものです。
血液とタービンの水しぶきにまみれ、あるいは針の穴より小さい根管を求めて神経をすり減らし、そしてきれいになった患者さんの口元からでる言葉は皮肉にも「歯の治療は嫌い」。昨今の歯科臨床技術はめまぐるしく発展していますが、この状況は昔からほとんど変わらないままです。
確かに診療室の雰囲気は独特であり、子供や恐怖心の強い患者さんでなくても歯科治療に対しては「嫌だな」という思いがあります。
この歯科治療の恐怖や不安から患者さんを解放させるものとして、長い医療の歴史のなかで確立されてきたものが、笑気吸入鎮静法です。笑気は誰もが持つ「嫌だな」という気持をやわらげることができます。
笑気吸入鎮静法を用いることで、歯科治療に対して「好き」とはいかないまでも「嫌い」と言われなくなれば、多くの人々は自分の健康のために、素直に歯科医院へ通うようになるでしょう。それはすなわち、「歯科疾患を減少させる」という私たち医療人の目標に、大きく貢献するものと思います。
歯科医院を訪れる内科的慢性疾患を持った患者さんのほとんどは、通常の生活ではあまり症状を現しません。しかし、なんらかのストレスや負荷が加わったときに急性症状が出現し、病状の悪化をもたらします。患者さんがこのような状況に至るのを未然に防ぐためには、歯科治療中における患者さんの精神と肉体の安静を保障する事が第一です。
精神鎮静法は患者さんをストレスから守り、精神を安静にさせる事によって、このような偶発症の発生を防止するのに非常に有効です。また、慢性疾患を持つ患者さんはその疾患の治療を優先するために、やむを得ず歯科疾患を放置する傾向にあります。
そうなると当然歯科疾患は重症化し、治療に際しては外科的侵襲を加えざるをえないケースが多くみられます。この場合はまさに精神鎮静法の適応であり、積極的に使用することで安全な歯科治療を提供します。このことが、歯科医が行う全身管理といえるでしょう。
精神鎮静薬は中枢神経の機能を抑制しますが、呼吸、循環、反射機能を抑制することはなく、あくまで患者さんの意識は保たれた状態にあります。思考に関しては、その統合が困難になり、そのことが恐怖心をつくれなくします。そこで患者さんは恐怖心や不快感といった精神的ストレスから解放され、穏やかな表情を呈し、リラックスした状態になります。目は半眼状態で、呼びかければ開眼し、開口や岐合などの指示に従うことができます。
局所麻酔などの疼痛刺激に対しては、鎮静によって疼痛閾値が上昇しており、患者さんの感じる痛みは比較的軽度に抑えられます。また、時間の経過をあまり気にしなくなり、治療時間が長くなっても治療を受け入れることができます。使用する薬剤によっては健忘効果を有するものがあり、これは治療における痛みや不快感、疲労感を治療後には忘れさせてしまいます。
実際に患者さんが経験する状況としては、おおむねお酒を飲んだときのほろ酔い気分に似た多幸感があります。こうして患者さんの協力を得て、治療を円滑かつ安全に行うことができます。
全身麻酔は、生理的な反射や代謝の変化、呼吸循環機能の低下など病態生理学的な点において、精神鎮静法とは全く異なった態度を示します。
特に全身麻酔では意識を消失させるために、患者さんの体調に異変が起こった場合、患者さんはそれを不快症状として訴えることができません。したがって、血圧計や心電図など各種モニターからそれを推測し、対処しなければならず、そこで十分な知識と技術、経験、設備が必要となります。
一方、精神鎮静法は患者さんの意識を消失させません。つまりもし患者さんの体調に異変が起こった場合、患者さんは不快症状として訴えることが可能であり、それによって術者は状況を把握し、患者さんは指示に従うことができます。
また、呼吸器系や循環器系は特に抑制されず安定しています。そして、使用する薬剤は少量であり、肝臓や腎臓に対する影響はほとんど問題ありません。これらのことは精神鎮静法が全身麻酔に比べてはるかに安全性の高い方法であることを示しています。
笑気吸入鎮静法は、笑気吸入装置で30%以下の低濃度笑気と70%以上の酸素を混合し、専用の鼻マスクを用いて患者さんに鼻から吸入させます。笑気の臭いはほのかに甘い香りで、違和感なく気持よく吸入できます。吸入された笑気は、肺から血中に急速に溶け込み、5分以内に鎮静状態に到達します。逆に、血中からの排泄も非常に速く、笑気の吸入濃度を変えることによって鎮静度を迅速にコントロールすることが可能です。そして笑気の吸入を停止すれば、いつでも速やかに鎮静状態から回復します。治療終了後は、患者さんを長時間観察する必要もなく、数分で帰宅させることができます。
10~20%の笑気吸入で体が暖かくなり、手足の先がぴりぴりした感じがしてきます。20~30%では口の周りのしびれや、体が軽くなってきます。また、遠くの方で音がするような感じがしたりします。このころになると、ぼんやりした非常に心地よい楽しい気分になり、体が重く感じたり、逆に軽く感じたりして、痛み感覚も相当鈍くなってきます。しかし、さらに濃度を上げると、発汗がみられ、健忘を伴い、眠気がしてきます。そして、精神的には興奮したり、落ちつきがなくなったりすることもあります。
歯科治療に不安や不快を感じない患者さんはいないでしょう。治療の内容がごく簡単なものでも、やはり不安感を持つものです。
その意味からすると、どんな患者さんにも、どんな処置内容であっても適応と思われます。
なかでも、特に笑気吸入鎮静法が必要な症例は、次のようなときです。
鼻閉などにより鼻呼吸のできない患者さんには物理的に無理ですが、本来歯科治寮における禁忌症でなく、通院できる体力を有する患者さんであれば安全に使用できます。